『ちびくろサンボ』はどこへ行ったのか?
みなさん、こんにちは!
いまだに休校が続き、緊急事態宣言なども出され、親子で家にいるという方も多いのではないでしょうか。
さて、そんな状況だからこそ、今までとはちょっと視点を変えて物事を見てみるのはいかがでしょうか?
今回は、『ちびくろサンボ』という絵本について考えてみたいと思います。
(acworksさんによる写真ACからの写真)
みなさんは子どもの頃に『ちびくろサンボ』という絵本を読んだことがありますか?
父ジャンボ・母マンボと暮らしている、男の子サンボのお話です。
ある日、両親から新しい靴・上着・ズボン・傘をもらったサンボは、それらを身に着けて散歩に出かけます。
しかし通りかかった虎たちに食べられそうになるたびに、
身に着けたものを1つずつ渡して許してもらうことで逃げることができます。
一方、虎たちはサンボから奪ったものをめぐって喧嘩をはじめ、
木の周りをぐるぐる回っているうちに溶けてバターになってしまいます。
そのバターを持ち帰り、パンケーキを焼いて家族みんなで食べる、というお話です。
実はちびくろサンボのお話には、さらに続きがあるのですが有名なのはここまでなので、
今回ご紹介するあらすじはここまでにしておきますね。
(cookieさんによる写真ACからの写真)
筆者は子どもの頃、最後に食べるパンケーキの描写がとても美味しそうで、
虎のバターのパンケーキを食べてみたくて仕方ありませんでした。
さて、話は脱線しましたが『ちびくろサンボ』の絵本をあまり見かけないと思いませんか?
この絵本は、一時はとても友好的に受け入れられていた絵本でした。
登場人物が、黒人で描かれており、イギリスやアメリカでも、黒人のイメージを向上させる絵本として、
図書館の推薦本になっていたほどなのです。
実は黒人ではなく原作のモデルはインド人だそうですが、
後に改変され、アメリカに住むアフリカ系黒人の少年に変わったことで
1970年以降、人種差別との関連性が問われ始め、その姿を消してしまうことになりました。
日本でも、そんな動きを受け批判運動などが起こり、
1988年(昭和63年)にはすべての出版社が絶版にしているのです。
それでは絶版になるような人種差別の表現が、絵本のどこにあったのでしょうか?
問題点はいくつかあったようですが、例えば主人公の「サンボ」という名前が
アメリカとイギリスにおける黒人に対する蔑称と共通しているということ。
最後にパンケーキをたくさん食べるシーンが、「大喰らいの黒人」を馬鹿にしているのではないか、
ということなどだそうです。
日本人の私たちが思う以上に、海外では人種差別というのは身近で根深い問題なのです。
みなさんも覚えていらっしゃると思いますが、アメリカ合衆国前大統領、バラク・オバマ氏。
オバマ氏は非白人として、アメリカ初の大統領となりました。
その道のりは険しいもので、オバマ氏は白人との混血のため、
黒人社会からも白人社会からも微妙な存在として扱われていたのだそうです。
子ども向けの絵本ですら人種差別の対象になってしまうくらいですから、
オバマ氏の苦労は私たちの想像をはるかに超えるのではないでしょうか。
大統領予備選の時には、暗殺の危機と報じられたり、
支持を集めていたにも関わらず、「副大統領に」と報道されてしまったこともあったのです。
オバマ氏が大統領だったのはつい最近の話です。
それでも、こうした人種差別の問題があったのです。
さて、絵本の『ちびくろサンボ』ですが今はどうなっているのでしょうか?
実は、日本では1989年(平成元年)に絶版措置に反対し、発売された絵本を皮切りに、
少しではありますが復刻されているのです。
それでも、本屋での取り扱いがないところがあったり、賛否両論が上がったりと、
いまだに論議が行われています。
中には登場人物の名前や性別、そして犬に変更されている改変版のものもあります。
『ちびくろサンボ』のように、絵本でも様々な社会的背景などを抱えているものは、
実は私たちの身の回りにたくさんあります。
しかし、これからの時代、そんな人種差別はあっていいのでしょうか?
これからの時代を生きる子どもたちには、そんな差別の目を持ってほしくないと願わずにはいられません。
(acworksさんによる写真ACからの写真)
『ちびくろサンボ』を純粋に絵本として楽しんでもらうのはもちろんですが、
「どうして『ちびくろサンボ』は消えなくちゃいけなかったのだろう?」
「肌の色、目の色、住むところが違うだけで人は違うのかな?」
と、考えるきっかけになればうれしいなと思います。
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